はじめに
2011年に国際放射線防護委員会で水晶体等価線量限度引下げの勧告が出て以降、国内では法令取入に向けた実態調査や被ばく低減対策の検討が進められてきました。放射線診療従事者の中でも業務内容と被ばくの関係を調査すると、X線管に接近して操作が必要な透視下手技に携わる医師や看護師の被ばくが特に高いことが明らかになってきました。法令改正後も線量限度を超過する可能性のある放射線診療従事者が存在し、その要因として以下のことが考えられます。
- 医療現場の実務に即した放射線防護教材の不足:放射線防護教材は多く用意されていますが、被ばくに関する概念・法令・理論に関するものがほとんどで、放射線診療従事者の実務に反映するのは困難です。多くの医療従事者がより理解しやすくするために、放射線診療従事者に対して事前に放射線被ばくの低減の重要性を説明するとともに、医療従事者の視点で様々な理解度や業務内容、さらに所持している防護具に応じた教材が求められていると考えられます。
- 放射線は五感に感じないこと:放射線は五感に感じないことから、危険を察知しづらいです。放射線の広がりや危険な場所を可視化、可聴化することで危険を予知することが可能になると考えられます。
- 放射線防護具の適正な使用法をはじめとした放射線防護法の理解不足:被ばく低減対策として放射線防護眼鏡や防護板の有効性が報告され活用されていますが、現場で所持しているだけでなく適切に使用しないと防護効果を発揮できません。手技によっては装置や患者と緩衝してしまうことから、全ての放射線診療で使用できるわけではありません。防護具だけでなく、照射条件や人員配置等から総合的に対策を図る必要があります。
そこで本労災疾病臨床研究では、これまでの知見とデジタルトランスフォーメーション(DX)の技術を活用して実効性の高い放射線診療従事者の被ばく低減対策教材を開発して被ばくの低減を図ることを目的とし、その成果を本ホームページにおいて紹介いたします。
※デジタルトランスフォーメーション(DX)とは、デジタル技術を使って社会生活や事業の在り方を変革させることで、本研究ではデジタル技術の活用による新たな放射線防護方法や放射線防護教材を開発し、医療従事者の被ばく低減に役立てることを目的としています。