医療現場での放射線防護の原則

医療現場における外部放射線防護の原則

医療現場での外部放射線防護の三原則

 距離: 放射線源、散乱線源を意識し、可能な限り距離をとる。
 時間: 放射線照射時間は、最小限にとどめる。
 遮蔽: 散乱線源と作業者の間に放射線遮蔽板を配置する。

その他、医療での放射線防護 適切な条件の設定や装置の品質管理を実施する

(照射条件の最適化)

  • 診療可能な最低限の画質となるよう、出力、パルスレートや撮影枚数、照射野を調整する、画像検出器と患者を可能な限り近づける

(照射野に手を入れない)

  • 照射野内外で100倍以上線量が異なる。手指の皮膚障害、皮膚がんの可能性

医療放射線での散乱線の特徴

  • X線が患者に衝突し、患者を中心に広がる
  • 患者からの後方散乱成分が多い
  • 患者による吸収もある
 
 

https://contsrv.icer.kyushu-u.ac.jp/Medu/XraySim/

遮蔽による放射線防護・放射線防護具の利用

 

放射線防護衣 

(PMDAの一般的名称「放射線防護用前掛」、「放射線防護用胸部前掛」、「放射線防護用生殖腺防護具」、「放射線防護用掛布」)

 軽量の放射線防護衣

  • 鉛製エプロンの重さは、スタッフに不快感を与えるため、疲労や背骨を含む筋骨格系の問題には特別な配慮が必要である(Papadopoulos et al., 2009; NCRP, 2010; Klein et al., 2015)。ウエストコートとスカートで構成されるツーピースエプロンは、人間工学に基づき体重の一部を腰で支えることで、背中への負担を軽減することができる。
  • 鉛の代わりにスズやビスマスのような高原子番号の元素を含む軽量のエプロンがある。 代替金属は単位質量あたりのエネルギーが 40 keV から 88 keV の X 線光子を吸収するのに鉛よりも効率的であるため、軽量のエプロンでも同様の減衰を実現できる(ただし組成により減衰特性は異なり、100 kVを超える管電圧では注意が必要(Christodoulou et al.,2003))。
  • 全体を覆うコート型は、素材が重なる部分は2倍の鉛当量になる。

 放射線防護用前掛の添付文書一覧 [PMDAサイト](エプロン、コート)

 放射線防護用胸部前掛の添付文書一覧 [PMDAサイト](ベスト)

 放射線防護用生殖腺防護具の添付文書一覧 [PMDAサイト](スカート、スタンド)

 放射線防護用掛布の添付文書一覧 [PMDAサイト](腹巻のようにスタッフの腹に巻きマジックテープで止めたり、患者に掛ける)

 

ネックガード

(PMDAの一般的名称「放射線防護用カラー」、「放射線防護用甲状腺防護具」)

 甲状腺の放射線防護

  • 放射線防護衣は頸部を防護しない。甲状腺用の放射線防護カラー(ネックガード)を着用していない場合、若者では放射線感受性の高い甲状腺への線量が、実効線量の値の 2 倍になる可能性がある。
  • 防護対策例として若年および年間の実効線量が4mSvを超える放射線診療従事者にはネックガードを使用することが提案されている(Wagner, 2004)。
  • ネックガードはきつく締めると不快な場合があると緩すぎると十分カバーできない可能性がある。
  • 外科用Cアーム透視装置により処置をする場合、手術室での防護措置は積極的に行われていないこともあり、ネックガードを使用する必要があるかリスク評価を実施する。

 

 

 

 

放射線防護用カラーの添付文書一覧 [PMDAサイト]

放射線防護用甲状腺防護具の添付文書一覧 [PMDAサイト]

 

放射線防護眼鏡

(PMDAの一般的名称「放射線防護用術者向け眼鏡」、「放射線防護用顔面防護具」、「放射線防護用ゴーグル」)

  • 鉛ガラスや鉛アクリルをレンズとして放射線業務中の眼を防護する。
  • 眼鏡でも前面のみ、側面も遮蔽するもの、パノラマタイプなど様々なレンズ形状がある。
  • 鉛当量は0.07から0.75mmPbなど様々で、基本的に鉛当量が大きいほど遮蔽能力が高いが、重量も重くなり、長時間かけていると耳や鼻に負担がかかる。(遮蔽能力は次項で紹介)
  • 一般的な眼鏡と同様に使用するタイプと眼鏡の上に掛けるオーバーグラスタイプがある。

ヘッドギアと一体となった構造のものもある。

放射線防護用術者向け眼鏡の添付文書一覧 [PMDAサイト]
放射線防護用顔面防護具の添付文書一覧 [PMDAサイト]
放射線防護用ゴーグルの添付文書一覧 [PMDAサイト]

 

頭部ファントムの水晶体位置に金属マーカーを配置してX線画像を取得

  • 散乱線源を把握し、隙間から水晶体へ届かないようにする
  • 業務時間や手技内容から適切な放射線防護眼鏡を選択する

 

 

 

 
 
 
  • 放射線防護眼鏡と水晶体の位置関係の評価

1.正面から照射した際の鉛当量と遮蔽率の関係

Hirata, Angular dependence of shielding effect of radiation protective eyewear for radiation protection of crystalline lens, RPT, 2019

  • 放射線防護眼鏡使用時のポイント
  • 種類により遮蔽できる範囲か異なる(サイドも遮蔽しているか)
  • 遮蔽部分と顔(頬)との隙間から入射する散乱線に注意する

頭部ファントムの水晶体位置に金属マーカーを配置してX線画像を取得

 

 

放射線防護用手袋

(PMDAの一般的名称「放射線防護用手袋」、「放射線防護用局所手防護具」)

  • 滅菌されたもので天然ゴムやクロロプレンゴム等に鉛化合物を含有させた手袋が提供されている。
  • 鉛当量は0.1mmPb程度(製品により異なる)
  • 主な用途は照射野近くで手技をする術者の散乱線防護であり、照射野内に手袋をつけた手を入れてしまうと装置の出力が上昇し患者の被ばくが増えてしまうことから、一次X線(直接線)からの放射線防護目的には使用しない。
 

 

 放射線防護用手袋の添付文書一覧 [PMDAサイト]

 放射線防護用局所手防護具の添付文書一覧 [PMDAサイト](CT生検時の補助具等)

 放射線防護用ミトンの添付文書一覧 [PMDAサイト]

 

放射線防護用帽子

(PMDAの一般的名称「放射線防護用帽子」)

  • 鉛や無鉛の放射線防護材を含んだものでキャップタイプやハチマキタイプのものがあり、術者の脳の線量低減が期待できる。
  • 散乱線の照射方向によっては効果を期待できないものもあり、放射線診療の場の状況に応じて使用する。

 

 放射線防護用帽子の添付文書一覧 [PMDAサイト]

 

 

放射線防護板

(PMDAの一般的名称「放射線防護用移動式バリア」、「放射線防護用固定式バリア」)

 手技中に術者の視界を遮ることなく鉛当量の高い遮蔽材として使用

  • 水晶体線量は、X線管の角度、IVR術者の位置や照射野形状により影響を受ける。天井吊り下げ式放射線防護板は、術者の頭頚部の線量を2‐10分の1に減らす有効なツールである。
  • 防護板を効果的に使用するには、X 線管と寝台が移動するときに、防護板を継続的に再配置する必要がある。 したがって、防護板は原則として優れた放射線防護効果を提供するが、臨床処置で使用される全ての照射角度で効果的に展開することに限界もある。
  • 天井吊り下げ式の他、キャスター式、衝立、カーテン式など様々な形式のもの販売されている。
  • 素材も目的に応じて透明度の高い防護ガラス板、防護プラスチック板を使ったものの他、鉛やタングステン、マグネシウム、チタン、ビスマス、バリウム(無鉛)など様々な種類、鉛当量のものがある。

 放射線防護用移動式バリアの添付文書一覧 [PMDAサイト]

 放射線防護用固定式バリアの添付文書一覧 [PMDAサイト]

 

放射線防護カーテン

  • X線管や寝台のレールに取り付け、術者への散乱線を遮蔽する構造となっている。
  • 散乱線源である患者近くでの遮蔽で室内全体に効果的な被ばく低減効果があるが、患者や装置との干渉に注意する必要がある。

 

  放射線防護用カーテンの添付文書一覧 [PMDAサイト](X線管や寝台に取り付ける)

 

放射線防護板の位置による散乱線分布の変化

時間による放射線防護・照射時間の短縮

  • スタッフの被ばく量は透視時間に比例する
  • 透視時間を最小限に留める
  • 透視画像を見ないときは透視を切る
  • 近年の装置は透視を停止した際の画像が表示され続ける
  • 透視のパルスレートを診療に支障のない範囲で下げる
 

https://www.xray-art.com/fluoroscopy/

距離による放射線防護・散乱線分布の把握

  • 放射線量は、線源からの距離の2乗に反比例
  • スタッフへの主な散乱線源は患者
  • 患者からの距離が50 cmから100 cmに離れることで被ばく量は約1/4に
 

照射条件・手技による防護

照射条件による術者の被ばくの増減

  • 術者はX線管に近づくと患者からの後方散乱が当たり、被ばくは増える。(IAEA動画教材
  • 照射野を絞るほど患者からの散乱線の発生量が少なくなり、被ばくは減る。(IAEA動画教材
  • 患者の体格が大きいと照射条件が上がり、被ばくは増える。(IAEA動画教材
  • 透視のフレームレートを下げるほど線量率が下がり、被ばくは減る。(IAEA動画教材
  • 患者と画像検出器を近づけるほど照射条件が下がり、被ばくは減る。(IAEA動画教材
  • 放射線防護手袋をつけて照射野内に手を入れると手袋内の手が見えるよう照射条件が上がり、患者と術者の被ばくが増える。(IAEA動画教材)(手袋は散乱線にのみ効果があり、照射野内に入れることは推奨されない。)

 

検査手技の観察による防護対策の振り返り学習

  • 高被ばく放射線診療従事者への業務内容の把握と対応例として、医師、患者の了承を得た上で手技の一連の流れを監視カメラで録画し検証。

透視作業時の被ばくの要因について、指導医に対する新人医師の特徴

  • 透視時間が長いように感じた。(透視時間が被ばく量に影響)
    患者体位の調整に時間がかかっている。→体位変換時に一度を透視を切る。
    カテーテル作業時に、透視を出してから開始している。
  • 照射野が常に全開だった。→可能な範囲で絞る。
  • 腹部圧迫時に顔が照射野付近まで近づいていた。
  • 高被ばく者には今回のように動画を撮って検証し、改善策をフィードバックすることが有用
  • 無線でリアルタイムに被ばくを表示する線量計システムにより、被ばく状況を把握する。
  • 一定の線量率で被ばくするわけでなく、線源に近づくことで一気に増える可能性がある。

X線装置の管理

線量管理や装置の品質管理は、患者だけでなく術者の被ばく低減もつながる。

X線透視における従事者防護の要点

  (日本医学放射線学会、日本インターベンショナルラジオロジー学会、医療放射線防護連絡協議会)

医療従事者からよくある質問

 

(参考:IAEA Radiation Protection of Patients(RPOP), Safety and interventional procedures

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