職業被ばくの線量限度と実態
被ばくの分類
職業被ばく | 業務の過程で職業人として受ける被ばく |
医療被ばく | 放射線診断や治療の過程で患者や介助者として受ける被ばく |
公衆被ばく | それ以外の被ばく |
職業被ばく:業務によって作業者が被るすべての被ばく
放射線業務従事者
- 放射性同位元素または放射線発生装置の取扱い、管理またはこれに付随する業務に従事するものであって、管理区域に立ち入るもの (RI規制法施行規則第1条)
- 管理区域内において放射線業務に従事する労働者 (電離放射線障害防止規則第4条)
- 【放射線診療従事者】エックス線装置等の取扱い、管理またはこれに付随する業務に従事するものであって、管理区域に立ち入るもの(医療法施行規則第30条の18)
放射線業務従事者の被ばくによる組織反応(体のある臓器への障害)の発生を抑え、確率的影響(全身のがんのリスク)の発生を「容認できるレベルに抑える」ために、法令において線量限度が設定されています。
放射線業務従事者の線量限度
(電離放射線障害防止規則 第4条)
実効線量限度 | 等価線量限度 | |
---|---|---|
通常作業 | 100 mSv/5年※1かつ 50 mSv/年※2 |
水晶体:100 mSv/5年※3かつ50 mSv/年※2 |
皮膚: 500 mSv/年※2 | ||
緊急作業 | 100 mSv | 水晶体: 300 mSv |
皮膚: 1 Sv | ||
女子※4 | 5 mSv/3月※5 | |
妊娠中の女子 | 内部被ばく:1 mSv※6 | 腹部表面: 2 mSv※6 |
※1: 平成13年4月1日以後5年ごとに区分した各期間(2001.4.1〜2006.3.31, 2006.4.1〜2011.3.31,…..)
※2: 4月1日を始期とする1年間
※3: 令和3年4月1日以後5年ごとに区分した各期間(2021.4.1〜2006.3.31, 2006.4.1〜2011.3.31,…..)
※4 : 妊娠不能と診断された者、妊娠の意思のない旨を使用者等に書面で申し出た者および妊娠中の者を除く
※5: 4月1日、7月1日、10月1日および1月1日を始期とする各3月間
※6: 本人の申出等により管理者等が妊娠の事実を知ったときから、出産までの間について(医療法施行規則・RI等規制法施行規則)、妊娠と診断されたときから出産までの間について(電離放射線障害防止規則)
線量限度 考え方のポイント
- 計画被ばく状況(平常時の業務)から個人が受ける、管理上超えてはならない実効線量又は等価線量の値。
- 安全と危険の境界を示す線量、放射線障害のしきい線量ではない
- 医療被ばくには適用しない
個々のケースで正当化、最適化が重要 - 自然放射線による被ばくを除く
- 実効線量限度:確率的影響について受け入れられるレベルを考慮して決定
- 等価線量限度:組織反応を考慮
水晶体等価線量限度引き下げの経緯
1984年 | ICRP Publ.41で視覚障害性白内障の急性被ばくによるしきい線量は5 Gy、水晶体の等価線量限度を150 mSvと勧告 |
2003年 | ICRP Publ. 92で、白内障のしきい線量がより低い可能性を指摘 |
2006年 | TG 63「(低LET放射線の)組織反応と非がん影響」を立ち上げ 低LET放射線の疫学的知見 (比較的長期間の追跡結果) 原爆被爆者の被ばく後55–57年の白内障や、チェルノービリ事故清掃員における被ばく後12–14年の白内障が有意に増加⇒しきい線量 0.5 Gy |
2011年 | ICRP主委員会会合で「組織反応に関する声明」を発表(ソウル声明) |
2012年 | ICRP Publ. 118 「組織反応に関するICRP声明」を刊行 |
ICRP Publ.118は2つの仮定に基づくもので、この妥当性は今後も検証が必要
- 生物影響は急性被ばく、多分割・遷延被ばく、慢性被ばくで同じ
- 全ての微小混濁が被ばく後20年以降で視覚障害性白内障に進行
日本国内での対応
- 放射線審議会 「眼の水晶体の放射線防護検討部会」を2017年6月に設置し、「眼の水晶体に係る放射線防護の在り方について」として報告書を作成し関係行政機関へ意見具申 (2018.3)
- 厚生労働省 「眼の水晶体の被ばく限度の見直し等に関する検討会」 6回の検討会後、報告書を作成(2019.9)、パブコメを経て、法令改正
労働安全衛生法
- 職場における労働者の安全と健康を確保
電離放射線障害防止規則 (電離則)
(放射線障害防止の基本原則)第1条 事業者は、労働者が電離放射線を受けることできるだけ少なくするように努めなければならない。
改正電離放射線障害防止規則のポイント
令和3年4月1日施行
- 水晶体等価線量限度を1年につき50 mSvに引き下げ、5年間で100 mSvを追加(新電離則第5条関係)
- 外部被ばく線量に3mm線量当量が加えられ、放射線の種類とエネルギーに基づき、適切と認められるもので測定する(新電離則第8条関係)
※保守的に算定する場合は、1cm線量当量及び70μm線量当量について測定する。 - 水晶体等価線量について、3月ごと及び1年ごとの合計に加え、5年ごとの合計を算定して記録し、原則として30年間保存(新電離則第9条関係)
- 令和3年4月1日から令和5年3月31日までの間、対応の困難な医師に対して、経過措置を設ける(改正省令附則第2条関係)
防護眼鏡等を使用する場合
(基発1027第4号 2020.10)
水晶体等価線量を低減する効果がある個人用防護具(防護眼鏡等)を使用している場合、法定の部位に加え、防護眼鏡等によって受ける等価線量が低減されている状態の水晶体等価線量を正確に算定するために適切な測定が行える部位に放射線測定器を装着し、当該測定器の結果に基づき算定した線量を水晶体等価線量としても差し支えない。
DOSIRIS(千代田テクノル)
https://www.c-technol.co.jp/radiation_monitoring/monitoring07
ビジョンバッジ(長瀬ランダウア)
https://www.nagase-landauer.co.jp/luminess/vision-badge.html
水晶体等価線量のモニタリングについて
頸部バッジと水晶体専用線量計の線量比
- 本データは頭頸部用ルミネスバッジと眼部用ビジョンバッジの両方が返却され測定した7,713 件(1,823 名分)の線量を対象に集計。
1ヶ月当たりの平均値は、頭頸部1.331 mSvに対し、眼部0.332 mSvと、約4 分の1 程度の線量になった。(表1) 7713件中296件(4%)は1.7mSv/月を超えていた。
改正省令附則第2条関係 「経過措置対象医師」
適切な防護措置を講じても水晶体等価線量が100 mSv/5年を超えるおそれのある医師で、高度の専門的知識経験を要し、後任者を容易に得ることができないもの
* 令和5年3月31日までに事業者が衛生委員会での調査審議等を経て指定する必要がある
眼の水晶体に受ける等価線量が継続的に1年間に20 mSvを超えるおそれのある者※に対する健康診断 (基発第568号)
- 白内障に関する眼の検査を電離則第56条第3項の規定により省略することは適当でない
- 白内障に関する眼の検査は、眼科医により行われることが望ましい
※ 健康診断を行う前年の1年間に眼の水晶体に受けた等価線量が20 mSvを超えており、かつ、当該健康診断を行う年の1年間に水晶体等価線量が20 mSvを超えるおそれのある者
都道府県労働局と都道府県等衛生主管部局との連携
令和3年1月28日付け基安労発 0128 第1号
① | 電離放射線障害防止規則第58 条に基づき事業場から労働基準監督署に提出された電離放射線健康診断結果報告書に、前年の実効線量又は水晶体等価線量が20~50 mSvである労働者がいる旨の記載がある病院・診療所の情報を、都道府県労働局から衛生主管部局に提供する。 |
② | 主管部局は、医療法に基づく立入検査の参考資料とするほか、労働局より情報提供があった旨を連絡する等、注意喚起を行う際の参考資料として活用する。 |
③ | 立入検査において実施した指導内容等を、必要に応じ都道府県労働局へ回報する。 |
国内の放射線診療従事者の水晶体被ばくの実態
2017,18 JSRT学術調査研究班
- 国立病院機構の放射線診療従事者の職種別・業務別水晶体等価線量を調査(延べ4493名・年) 不均等被ばく管理をしている医療従事者のうち、2.9%が20mSv/年を超えている*
*防護眼鏡の効果は考慮していない
藤淵 他:放射線診療従事者の不均等被ばく管理の実態に基づく水晶体被ばく低減対策の提案、日放技誌 (2021)
職種別実効線量と水晶体等価線量の関係
- 看護師は女性が多くバッジ位置が腹部と頸部で距離があるため
- 職種による防護衣の鉛当量、体幹部と頚部バッジ装着間違い
- 職種による被ばく状況の違い
(男女での比較)
男性: y=3.29x R2=0.754
女性: y=4.67x R2=0.711
医師の診療科別年間水晶体等価線量分布
①循環器内科318人中、49人(15%)、次いで②消化器内科301人中、33人(11%)、③消化器外科(6.8%)以下と差が大きい。
看護師の所属別年間水晶体等価線量分布
- 看護師の所属は回答がまばらなため判定は難しい。
- 病棟や手術室ではなく、外来でX線透視室、内視鏡室での検査に携わる看護師が超える可能性が分かる。
診療放射線技師の主要業務別月間水晶体等価線量分布
- 月別主担当業務を集計
- CTと一般撮影が高く、X線透視室、血管造影を担当して20 mSv/年を超える可能性は低い
- MRIは、当直等の業務の影響と考えられる
実態調査結果のまとめ
- 水晶体等価線量が20 mSv/年を超える可能性の比較的高い職種は、透視業務に携わる医師と看護師
- 水晶体被ばくの高い所属や業務は、
→医師:循環器内科、消化器内科、消化器外科、放射線科、整形外科、
部署として血管造影室、 X線透視室、内視鏡室、手術室
→看護師:X線透視室、内視鏡室での検査に携わる者
→診療放射線技師:CTと一般撮影であり、 X線透視室、血管造影を担当して20 mSv/年を超える可能性は低い - 今回のデータは防護眼鏡による遮蔽は考慮していない
- 水晶体被ばくの可能性の高い部署での適切な不均等被ばく管理と防護対策が求められる⇒防護の最適化