Diagnostic Reference Levels — 線量限度ではなく、自分の施設の「現在地」を知るものさし
「DRLを超えたら違反ですか」― いいえ。診断参考レベル(DRL)は線量限度ではありません。自分の施設の線量が全国の中でどのあたりにあるかを知り、高すぎるなら見直しを始めるきっかけにするための道具です。
このページは、J-RIME(医療被ばく研究情報ネットワーク)が2025年7月7日に公開した「日本の診断参考レベル(2025年版)」と、ICRP Publication 135(2017)の考え方に沿ってまとめています。各検査のDRL値は報告書でご確認ください。
日本の診断参考レベル(2025年版)PDF/英語版 PDF/補遺:DRL量および関連用語 PDF/ICRP Publication 135
DRL(diagnostic reference level)は、標準的な検査において、他施設より線量が高い施設がそのことに気づき、最適化のプロセスを始めるためのツールです。
決め方は単純です。全国調査で各施設の標準体型の患者での線量の中央値を集め、その分布の75パーセンタイル値を参考に設定します。つまり「全国の施設のうち、上位4分の1に入るほど線量が高いかどうか」を見分ける線です。
臨床的な必要性があれば、DRL値を超えてもかまいません。超えたこと自体は違反ではありません。
標準的な患者群に対する指標です。一人ひとりの患者の線量が適切かどうかを判定するものではありません。
むやみな「線量低減」ではありません。診断に必要十分な画質を確保したうえで、不要な被ばくをなくすことが目的です。
3つの線で、自施設の位置がわかる
| DRL Diagnostic Reference Level/診断参考レベル | 全国の施設の中央値の75パーセンタイル。これより高ければ、条件やプロトコルの見直しを始める目安。 |
|---|---|
| AD Achievable Dose/達成可能線量 | 全国の中央値。DRLを下回っている施設も、可能なら中央値を目指す。 |
| DRR Diagnostic Reference Range/診断参考レンジ | 25〜75パーセンタイルの幅。25パーセンタイルを下回る施設は、画質に問題がないかを確認する。 |
DRLは「線量の最適値」ではありません。線量が他施設に比べて高いときに、そのことに気づくためのきっかけです。低ければ低いほどよいわけでもなく、低すぎれば診断に必要な画質が失われているかもしれません。
DRLは一度決めて終わりではありません。DRL値を設定 → 各施設が自施設の線量と比べて最適化 → 次の全国調査で新しいDRL値を決定、を繰り返すことで、全国の線量の均質化をはかります。日本では2015年版、2020年版、2025年版と5年ごとに更新されてきました。
ICRP Publication 135 は、DRLについて次のような問題を指摘しています。
DRLの目的は最適化であり、線量と画質の両面から評価することが大切です。
2015年版・2020年版に続く、国内3回目の公式報告書
| 公開 | 2025年7月7日(J-RIME) |
|---|---|
| もとになった調査 | 2024年に実施された全国規模の線量調査(6,973施設に郵送)。前回を大幅に上回る施設から回答を得て、日本の放射線診療の実態をより正確に反映した。 |
| 位置づけ | 2020年の医療法施行規則改正で線量管理が義務化されたことを受け、その具体的な指標としての役割をもつ。 |
2020年版と比べて、多くのプロトコルでDRL値が低下しました。日本全体で医療被ばくの最適化が着実に進んでいることを示しています。
| 成人CT | 2015年版より約30%、2020年版より20%近く減少 |
|---|---|
| 一般撮影 | 2020年版より3割近く減少 |
| 循環器用透視装置の基準透視線量率 | 75パーセンタイル値で比べて、2015年版より31%、2020年版より8%低下 |
低下の要因としては、次の複合的な要素が考えられています。
国内での最適化は進んでいますが、諸外国と比較すると日本のDRLは依然として高い傾向にあります。
背景には、装置メーカーによる線量の差や、どこまでの画質を求めるかという問いがあります。日本の医療現場には、さらに線量を最適化できる可能性があります。
DRLs 2025 で追加・変更された主な点です。各検査のDRL値は報告書をご覧ください。
| 成人CT | 冠動脈CTにプロスペクティブ撮影と単純(カルシウムスコア)撮影を追加。外傷全身CTは4種類から1種類に統一したが、施設ごとに撮影方法が異なるため参考値の扱い。回答は953件(前回218件)と大きく増え、25パーセンタイル・中央値・75パーセンタイルを併記した。 |
|---|---|
| 小児CT | 年齢別に加えて体重別のDRLを追加。体格は同じ年齢でも個人差が大きいため、体重を優先して使う。 |
| 治療計画CT(成人) | 脳腫瘍のSRTと肺癌のSBRTは、ほかのプロトコルより線量が高く、ばらつきも大きい。薄いスライス(1 mm など)が必要なことと、肺では4D CTを使う施設があることが要因。 |
| SSDE | 現時点ではDRL量としては適切でないとされた。ただし装置が自動計算できる場合は、最適化のための有用な追加情報になりうる。 |
| 一般撮影 | 6,973施設中509件の有効回答。小児の股関節と全脊柱を追加。2020年版に比べ3割近く減少。面積線量の調査も行ったが回答は53〜99施設で、今回は参考値。 |
| マンモグラフィ | 臨床データによる平均乳腺線量は 2D 1.4 mGy、DBT 1.6 mGy(いずれも75パーセンタイル)。PMMA 40 mm での平均乳腺線量は 2.2 mGy(95パーセンタイル)で、2015・2020年版より約10%低い。前回の10倍のデータを集めたが、臨床データのDRL値はほぼ変わらなかった。 |
| 歯科 | 口内法は2018年調査より約1割減ったが、海外より高い。歯科用コーンビームCTは前回との差が±10%程度で、英国(2019)より高い。パノラマ撮影も英国(PKA 81 mGy·cm²)より高く、引き続き最適化の啓発が必要とされた。 |
| 血管撮影・IVR | TAVI(経大腿アプローチ)、小児心臓(体重区分)、子宮筋腫UAE、PAVM、BRTO、下肢EVT(4区分)を追加。直近30症例の装置表示値で集計し(465件)、ほとんどの検査で2020年版より低下。基準透視線量率はDRL値から参考値に変更(全国1,040台、86パーセンタイル → 75パーセンタイル)。 |
| 診断透視 | ERCPは検査と治療を統合。胃X線検診を追加。移動形X線透視装置(脊椎固定術・側弯症矯正・大腿骨折観血的手術など4種目)を追加し、標準ファントムでの実測値を参考値として掲載。340件の回答で、2020年版とおおむね同じ値だった。 |
| 核医学 | 1,178施設中476施設が回答。新たに保険適用となった心アミロイドーシス(99mTc-PYP、99mTc-HMDP)、センチネルリンパ節(子宮体癌・子宮頸癌・外陰癌・頭頸部癌)、悪性神経膠腫(18F-Fluciclovine)を追加。全体に減少傾向。SPECT/CT・PET/CT は施設間差が大きい。 |
血管撮影で使う線量の指標(Ka,r・PKA・基準透視線量率)の意味は、用語解説「血管撮影での線量の概念と評価方法」で説明しています。
線量記録にもとづき、DRLを使ってPDCAを回す
| Plan | 臨床で各領域・疾患に使うプロトコル(透視・撮影条件)を決める。 |
|---|---|
| Do | 血管撮影・IVRの線量記録で、実際の線量を把握する。 |
| Check | 領域ごとに、疾患別・手技別に連続した20〜30例、または一定期間の装置ごとの中央値を、DRLs 2025のDRL値と比べる。 |
| Action | 下の2通り。 |
① 装置のプロトコルを見直す。基準透視線量率はDRLs 2025では参考値なので、自施設の装置の出力線量を測定・評価し、画質を考えながら線量を下げる方策をとる。
② IVRでの術者の手技プロトコル・方法と、技術(能力)を評価する。
① DRL値は最適な線量ではないので、各領域の中央値(50パーセンタイル)を参考に線量を評価する。
② 25パーセンタイル以下と極めて低い場合は、臨床時の画質について術者と検討し、装置出力の引き上げも含めて検討する。
血管撮影・IVRでは、DRL量となる装置表示の線量(Ka,r、PKA)が、臨床的な要件と技術的な要件の複雑な組み合わせで大きく変わります。
| 臨床的要件 | 患者ごとの解剖学的な違い(体型、血管の走行・分枝・径・性状)、治療病変の複雑さ、IVR手技の複雑さ |
|---|---|
| 技術的要件 | 装置の性能、術者の技術、診療放射線技師の技術 |
アンケートで標準的な疾患や手技を統一的に調べることは難しく、これがDRL値の設定における限界になっています。DRL値と比べるときは、自施設の症例の中身もあわせて見る必要があります。
| DRLとは | 全国の施設の中央値の75パーセンタイル。線量が高い施設が気づき、最適化を始めるための道具。 |
|---|---|
| やってはいけないこと | 個々の患者の線量の判定や、限度値としての使用。 |
| DRLs 2025 | 多くのプロトコルで線量が低下し、国内の最適化は着実に進んだ。一方で、冠動脈CTなど国際的にはまだ高い領域がある。 |
| 新しく加わったもの | 小児CTの体重別DRL、TAVI・下肢EVT、移動形透視装置、新規放射性医薬品など、臨床の実態に即した項目。 |
| 使い方 | 高ければ見直し、低ければ中央値を参考にし、低すぎれば画質を確認する。線量と画質の両面から評価する。 |
本ページは、当研究室の講演資料「DRLs 2025 のキーポイント ~医療被ばくの Strategy~」(第20回九州放射線医療技術学術大会、2025年11月1日、九州大学大学院医学研究院 保健学部門 医用量子線科学分野 藤淵俊王)をもとに構成しました。数値は J-RIME「日本の診断参考レベル(2025年版)」および ICRP Publication 135(2017)によります。図は当研究室で作成した模式図で、報告書の図表は使用していません。各検査のDRL値と正確な記述は原典をご参照ください。
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