Dose in Fluoroscopically Guided Interventions — 装置に表示される数字は、何を測っているのか
血管撮影装置の画面には「mGy」と「Gy·cm²」の2つの数字が出ます。それぞれ何を表していて、患者の皮膚にはどれだけ当たったことになるのか。数字の意味を知らずに記録しても、線量管理にはなりません。
透視ガイド下インターベンション(FGI:fluoroscopically guided intervention)は、臓器や造影剤、ガイドワイヤなどの動きを透視で見ながら進める手技で、さまざまな診療科で使われています。長く複雑な手技では、患者の皮膚の線量が組織反応(確定的影響)のしきい線量を超えることがあります。
組織反応は時間がたってから現れるため、手技の最中や直後には気づけません。高線量を受けた患者を適切に見分け、経過を観察し、ケアにつなげる仕組みが必要です。国際放射線防護委員会(ICRP)は、IVRによる皮膚障害の事例と回避策を Publication 85(2000)と Publication 120(2013)で報告しています。
日本でも2020年の医療法施行規則改正で、診療用放射線の安全利用のための指針の策定と、CT・循環器用X線透視診断装置などでの線量の管理と記録が義務づけられました。
| 項目 | 照射線量 X | 空気カーマ Ka | 吸収線量 D |
|---|---|---|---|
| 何の量か | X線・γ線が空気を電離させた量(電荷量) | 放射線が物質中の電子に与えた運動エネルギー | 物質が実際に吸収したエネルギー |
| 対象の放射線 | X線・γ線のみ | X線・γ線・中性子(間接電離放射線) | すべての放射線 |
| 対象の物質 | 空気のみ | 空気(カーマ自体は任意の物質で定義できる) | 任意の物質 |
| 単位 | C/kg | Gy(=J/kg) | Gy(=J/kg) |
| 備考 | W/e(33.97 J/C)を掛けると空気カーマに換算できる。現在のSI単位系では直接は使われない。 | 荷電粒子平衡が成り立てば吸収線量とほぼ等しい。X線装置の出力の測定に適している。 | 皮膚や臓器の線量など、生物学的影響を評価する最も基本的な量。 |
指標によって、わかることが違う
| (線量)指標 | 特徴 |
|---|---|
| 透視時間 | 最も広く使える指標。ただし、組織への影響を予測するという観点からは最も有用性が低い。 |
| 累積空気カーマ Ka,r(CAK:cumulative air kerma) | 特定の基準点において、空気中で測った透視と撮影の累積のカーマ。後方散乱は含まない。基準点は取扱説明書に記載がある。2006年以降の装置では表示が義務づけられている(IEC)。最大皮膚線量の代わりに使われることがあるが過大評価になるため、正確な評価には補正が必要。 |
| 面積空気カーマ積 PKA(KAP:air kerma–area product) | 空気カーマと照射野面積の積。面積線量(DAP:dose–area product)と同じ意味。広い照射野への少ない線量と、狭い照射野への多い線量が同じ値になるため、皮膚への影響の指標としては不十分とされる。 |
| 最大皮膚線量 PSD:peak skin dose | さまざまな方向からの照射による皮膚線量の分布を重ね合わせ、その最大値を推定する。最新の装置では一般的になりつつあり、操作者が3次元の皮膚線量分布を見て組織反応を防ぐことができる。 |
Ka,r は、患者の皮膚表面に入射する空気カーマを得るための位置で測った値です。この位置を患者照射基準点(PERP:patient entrance reference point)と呼びます(以前は「IVR基準点」と呼ばれていました)。装置の形によって、次のように定義されています。
| アンダーテーブル形の装置 | 寝台から 1 cm 上 |
|---|---|
| オーバーテーブル形の装置 | 寝台から 30 cm 上 |
| Cアーム式の装置 | アイソセンタから焦点の方向へ 15 cm |
| アイソセンタのない Cアーム式の装置 | 製造業者が定義した、X線ビーム軸と患者の皮膚面との交点 |
出典:日本産業規格 JIS Z 4751-2-54(2022)/Japan DRLs 2025 補遺:DRLs 2025 の設定に用いたDRL量および関連用語
PERPは装置で決まった仮想の点で、実際の患者の皮膚がそこにあるとは限りません。患者の体格や寝台の高さが変われば、皮膚の位置はPERPからずれます。Ka,r をそのまま皮膚線量と読み替えられないのはこのためです。
装置の出力そのものを比べるための量です。装置の寝台に被写体として厚さ20 cmのアクリル板を置き、患者照射基準点に線量計をセットして、被写体からの後方散乱を含む入射表面空気カーマを1分間測った値を、基準透視線量率(mGy/min)とします。
日本の診断参考レベルの2015年版・2020年版では、この Ka,e を循環器用X線透視診断装置のDRL量としてDRL値を設定していました。しかしこれは臨床時の線量ではなくファントムで測った線量なので、厳密にはDRLの指標から外れます。そのためDRLs 2025 ではDRL値ではなく参考値として示されています。自施設の装置の出力を評価するときの目安として使います。
DRLs 2025 の考え方は 用語解説「診断参考レベル(DRL)」 で説明しています。
PKA は、照射野より広い範囲をカバーする線量計(面積線量計)で測る量で、空気カーマ Ka と照射野面積の掛け算です。線源からの距離によらず一定になるのが大きな特徴です。
| 線源からの距離 | PKA(Gy·cm²) | 照射野(cm²) | Ka(Gy) |
|---|---|---|---|
| 0.5 m | 400 | 25 | 16 |
| 1 m | 400 | 100 | 4 |
| 2 m | 400 | 400 | 1 |
入射表面での照射野がわかれば、PKA から Ka に換算できます。照射のパラメータを変えたとき、それぞれの量は次のように動きます。
| 操作 | Ka,r | PKA | 臓器線量 |
|---|---|---|---|
| 出力(kV・mA など)を上げる | 増加 | 増加 | 増加 |
| 照射野を広げる | 不変 | 増加 | 増加 |
| 線源と皮膚の距離を近づける | 不変 | 不変 | 増加 |
照射野を広げたときに増える臓器線量をとらえられるのは PKA のほうで、臓器線量とは PKA のほうが相関があります。一方、線源を皮膚に近づけたときの増加は、Ka,r にも PKA にも表れません。どの指標にも見えない部分があることを知っておく必要があります。
脳と心臓の手技で、3種類の臓器線量計算ソフト(PCXMC・NCIRF・VDIR)を比べた研究では、臓器線量はソフトによって100%以上も違った一方で、実効線量は PKA とよく相関していました。
出典:Calderoni et al., Effective and organ doses assessment in neuroradiologic and hemodynamic procedures: comparison among three different simulation software, Physica Medica, 2025
実効線量を個々の患者のリスク評価に使うべきでない理由は 用語解説「実効線量」 をご覧ください。
米国では、医療施設の認定機関や州の規制当局の基準によって、医療機関は透視の線量指標を記録し、そのデータを管理し、患者の経過観察の体制をつくることが求められています。このガイドラインは、FGIでの患者線量管理における診断領域の認定医学物理士(QMP:qualified medical physicist)の役割をまとめたものです。
規制や認定の要件にかかわらず、高線量のFGIによる組織反応を防ぎ、見つけ、適切にケアするために、施設は次の3つを定める必要があるとしています。
適性の確認と、患者の同意。
線量のモニタリングと、患者の線量指標が一定のレベルに達したときの関係スタッフへの通知。
しきい値のレベルを超えた患者の経過観察。
受入試験・性能試験・定期的な許容性試験と、患者・スタッフの線量管理として、次の項目を実施します。
| 使用者の訓練と権限 | 透視装置の安全な使用のための訓練、認定、使用者の権限は、患者とスタッフの放射線安全の重要な点。 |
|---|---|
| 職業被ばくのモニタリング | 適切なスタッフをモニタしているか/線量計の種類は適切か(透視では不均等被ばくの管理)/頻度は適切か/スタッフは線量計を正しく使っているか/結果を調査しているか/規制要件を満たしているか。 |
透視での患者の皮膚線量の推定技術の現状をまとめ、最大皮膚線量(PSD)の推定手順を示した報告です。
血管撮影装置の自動露出機構(AEC)は、画像ノイズと患者の線量を抑えながら、動く臓器などに十分なコントラストと空間分解能が得られるよう、照射パラメータを連続的に変えます。そのため皮膚線量の計算に必要な情報は膨大になります。
DICOM RDSR(radiation dose structured report)を使えば、照射ごとの管電圧、管電流、パルス幅、フィルタ、空気カーマ、Cアームの角度、被写体との距離などを確認できます。ただし RDSR にもとづく推定は処置の後でしか計算できません。処置中の情報にアクセスできる装置メーカーは、リアルタイムでの推定と表示を実現しています。
Dskin = K × kisq × kBS × kf × k(T+P)
| K | 基準点での空気カーマ |
|---|---|
| kisq | 線源から皮膚までの距離の補正(逆二乗) |
| kBS | 被写体からの後方散乱の補正 |
| kf | 空気とは異なる媒体(皮膚)でのカーマへの補正 |
| k(T+P) | 寝台とパッドによる減衰と前方散乱の補正 |
出典:Estimation of patient skin dose in fluoroscopy: summary of a joint report by AAPM TG357 and EFOMP, Medical Physics, 2021
当研究室も、RDSRから血管撮影の皮膚線量分布を推定する研究と、後方散乱から皮膚線量をリアルタイムに評価する研究に取り組んでいます(研究内容 ― 主な研究テーマ)。
インターベンションの広がりとともに透視装置のハードウェアとソフトウェアも進歩しましたが、その速度は、新しい技術を使いこなすための教育よりも速かったと報告は指摘しています。その結果、病院に納入された装置がメーカーの初期設定のまま使われ、施設の患者層に合わせた画質と線量の調整が行われないことがあります。小児向けの設定がない初期設定のままでは、画質が最適化されておらず、過剰な線量を与えたり、再検査が必要になったりします。
TG251では、乳幼児の四肢や体幹から成人の体格までを模擬できるよう厚さを変えたPMMAを使い、透視モードと撮影モードの両方で、空気カーマ率(AKR)・管電圧・管電流・パルス幅を測定・記録しました。
| 対象 | 131台(うちIVR装置38台) |
|---|---|
| 装置の種類による差 | AKRの中央値に多少のばらつきはあるが、大きくはない。同じような装置でも、臨床での使い方によってAKRが異なる可能性がある。 |
| 連続透視とパルス透視 | 連続透視モードのAKRは、パルスモード(8パルス/秒)の3倍以上。 |
| 自動線量率制御(ADRC) | 患者の体格やフィルタによる減弱、SDD(線源–受像器間距離)の変化に対して、検出器へのAKRが一定になるようX線出力を調節する。使う装置の特性を把握しておく必要がある。 |
| 画質 | 本報告では画質を評価していないが、画質の評価と理解の重要性を否定するものではない。 |
| なぜ管理するか | X線透視では患者に組織反応が起こりうる。反応は遅れて現れるので、記録と経過観察の仕組みが要る。 |
|---|---|
| 指標の読み方 | Ka,r は基準点での値で後方散乱を含まず、皮膚線量をそのまま表すわけではない。PKA は距離によらず一定で、臓器線量とよく相関するが、皮膚への影響の指標としては不十分。 |
| ガイドライン | 国内外で法規制やガイドラインが整備されており、基本的な考え方に違いはない。 |
| 装置の設定 | 性能評価だけでなく、施設の状況や患者(とくに小児)に応じたプロトコルの設定が求められる。 |
| 残る課題 | 正確な皮膚線量の評価には限界があり、新しい技術の研究開発が続いている。 |
本ページは、当研究室の講演資料「血管撮影に関係する線量の概念と評価方法」(第85回九州循環器撮影研究会、2025年8月30日、九州大学大学院医学研究院 保健学部門 医用量子線科学分野 藤淵俊王)をもとに構成しました。ガイドラインの内容は原典の要約で、正確な記述は各報告をご参照ください。図は当研究室で作成した模式図で、原典の図表・写真は使用していません。
下記のメールアドレスへ直接ご連絡ください。数日以内にご返信します。