研究内容

当研究室は「医用放射線による患者およびスタッフの放射線防護、モニタリング、放射性廃棄物に関する研究」と「放射線の可視化に関する研究」を二本柱としています。実験計測・数値シミュレーション・現場調査を組み合わせ、科学的根拠に基づいた被ばく低減策を提案します。

Webブラウザ上での3次元散乱線分布の可視化
Web上で観察できる3D散乱線分布モデル(XR教材)
モンテカルロ計算による散乱線分布と遮蔽設計
モンテカルロ計算による散乱線分布と遮蔽設計

1. 医療被ばく・職業被ばくの評価

X線透視・IVR(画像下治療)、核医学、放射線治療などの放射線診療において、患者および医療従事者が受ける被ばく線量を定量的に評価します。2011年の国際放射線防護委員会(ICRP)勧告以降に重要性が増した、診療従事者の職業被ばく管理を中心に研究を進めています。

2. 線量評価・モニタリング

各種線量計・ファントムを用いた実測と、放射線診療従事者の被ばくモニタリング手法の高度化に取り組みます。水晶体・末端部位を含む部位別の被ばく実態の把握と、より実効的なモニタリング体制を提案します。

3. モンテカルロシミュレーションによる線量分布解析

モンテカルロ法を用いて放射線の散乱・線量分布を計算し、防護具・遮へい配置の最適化や被ばく低減効果の定量評価を行います。実測との比較によりシミュレーションの妥当性を検証します。

4. 放射性廃棄物の安全管理

医療・研究で発生する放射性廃棄物の適切な管理と安全確保に関する研究を行います。アイソトープ統合安全管理センターと連携し、安全管理体制の向上に貢献しています。

5. 放射線の可視化とXR教材開発

「見えない」放射線を AR/VR/MR(XR)技術で可視化し、放射線防護教育のための教材として実装します。デジタルトランスフォーメーション(DX)を活用した被ばく低減プログラムの開発と、その教育効果の検証に取り組んでいます(詳細は教育・XR教材ページ)。

3Dプリンタで出力した散乱線分布モデル
3Dプリンタで出力した散乱線分布の立体モデル
3Dプリンタによる人体ファントムの作成
3DプリンタによるCT値一致型の人体ファントム作成

主な研究テーマ

研究紹介資料より(学生の卒業研究・大学院研究のテーマ)

放射線皮膚炎への防護剤開発

放射線治療に伴う放射線皮膚炎(ARD)に対する放射線防護剤の開発と、マウス・細胞培養実験による検証。

皮膚線量マップの推定

血管撮影での皮膚線量分布をDICOM-RDSRから推定表示し、線量管理システムと連動させる。

線量分布のリアルタイム計測

ピンホール/深度カメラを組み合わせた可視化カメラで、後方散乱から皮膚線量分布をリアルタイム評価。

3Dプリンタ人体ファントム/散乱線モデル

CT値を一致させた人体ファントムや、AR放射線防護教育用の散乱線立体モデルを3Dプリンタで作成。

散乱線分布評価と防護具配置

X線透視時の散乱線分布を高精度に評価し、新しい防護具の効果的な配置法を検討。

診療室の遮蔽構造の検証

モンテカルロ計算によりX線検査室の散乱線・漏洩線を評価し、効率的な建屋・遮蔽構造を検証。

ARによる臓器表示と診療支援

CT・エコー画像ベースの臓器を人体に重ねてAR表示し、解剖教育・撮影・穿刺を支援。

臓器線量・実効線量換算と高速推定

X線検査時の臓器線量・実効線量換算係数の算出・検証と、高速な線量推定。

CT検査の画質・線量最適化

サイズ別線量(SSDE)・自動ノイズ/コントラスト評価・深層学習により、画質と被ばくのバランスを最適化。

放射性廃棄物の安全管理

核医学で生じる短半減期核種を含む放射性廃棄物の適正管理とリスクコミュニケーション。

放射線治療における研究

放射線治療の分野では、XR(AR/VR)と数値シミュレーションを活用した研究に取り組んでいます。AR(HoloLens)を用いた患者セットアップ支援、VRによる治療の患者体験、そして直線加速器(Linac)室で発生する光子・中性子の周辺線量を、モンテカルロコード PHITS と実測(ガラス線量計・中性子飛跡検出器)で評価しています。

ARを用いた放射線治療の患者セットアップ支援
AR(HoloLens)による放射線治療の患者セットアップ支援
TrueBeam治療室の周辺線量のモンテカルロ計算
Linac(TrueBeam)室内の周辺線量分布のモンテカルロ計算(実測と比較)

散乱線の可視化とリアルタイムイメージング

モンテカルロ計算で求めた散乱線分布を、iPad/iPhone向けARアプリ「X-SERVE」として実装し、LiDARで医療スタッフを追跡して複数点の被ばくを推定します。Cアームの角度や防護板配置による散乱線方向の違いを可視化し、心臓血管撮影では散乱線源を3Dで可視化して線量率の高い領域を特定します。さらに、ピンホールコリメータ+CMOSカメラ+深度カメラを組み合わせた散乱線可視化カメラで、照射中の散乱線源をリアルタイムに撮像する研究を進めています。

散乱線可視化ARアプリ X-SERVE
散乱線可視化ARアプリ「X-SERVE」(iPad/iPhone)
Cアーム角度別の散乱線方向の可視化
Cアームの角度別にみた散乱線方向の可視化
散乱線の発生源別の線量分布
散乱線の発生源別(直接線・患者散乱・管球散乱)の線量分布
散乱線の方向ベクトル評価
散乱線の方向ベクトル評価(DQPEX)

ARアプリ「X-SERVE」(X-ray examination Scattered Radiation Visualize application)は、モンテカルロ計算による散乱線分布をiPad/iPhoneの実空間に重ねて表示します。線量の大きさに応じた色(赤→黄→緑→水色→青)で散乱線の3次元的な広がりを示し、装置構成(X線管・患者・ポータブル装置)に合わせて任意の位置の被ばくを直感的に把握できます。

X-SERVEの装置構成
X-SERVEで表示する装置構成(X線管・患者・ポータブル装置)
線量レンジ別の3D散乱線モデル
線量レンジ別に色分けした3D散乱線モデル

医療被ばくの精密な線量評価

メッシュ型計算ファントム(MRCP)やCT画像を用いて、CBCT・X線検査時の臓器線量・実効線量を高精度に推定します。実機・ファントムでの実測と組み合わせ、推定精度を検証し、患者個々の体型に応じた線量評価を目指しています。

計算ファントムによる臓器線量分布
CBCT・X線検査時の体表・臓器線量分布(計算ファントム MRCP)
シリコン放射線防護材による水晶体線量の低減
シリコン放射線防護材による水晶体線量の低減

放射線皮膚炎に対する防護剤の開発

放射線治療では、頭頸部がんや乳がんの患者の多くが照射部位に放射線皮膚炎(ARD)を生じます。重症化は治療の中断につながるため、当研究室では皮膚に塗布して薄い被膜を形成する皮膜形成エマルション(FFE)など、新しい放射線防護剤の開発と、マウス・細胞培養実験による有効性の評価に取り組んでいます。

経皮デリバリーによる皮膚ダメージの予防・修復
経皮デリバリー型製剤による皮膚ダメージの予防・修復(マウス実験)

国際連携・共同研究

インドネシア(ディポネゴロ大学)・韓国(江原大学校 Kangwon National University)などの大学・研究機関と国際共同研究・交流を進めています。国際会議での発表や相互訪問を通じて、放射線防護・医用物理の研究を国際的に展開しています。

また、国際原子力機関(IAEA)の地域協力協定(RCA)プロジェクト「診断・IVR領域の医学物理士の体制強化」(2024–2027)に参画し、アジア太平洋の16か国とともに、より安全な放射線診療の実現に取り組んでいます。2025年12月にはウィーンのIAEA本部で中間レビュー会合に参加しました。

九州大学フォーラム KYUDAI NOW
九州大学フォーラム(KYUDAI NOW、インドネシア)
国際学会での発表・交流
国際学会・展示での発表と交流
IAEA本部(ウィーン国際センター)
IAEA本部(ウィーン国際センター)
IAEA/RCAプロジェクト中間会合
IAEA/RCAプロジェクトの中間レビュー会合(ウィーン, 2025.12)