Education — 「見えない放射線」を可視化し、安全な放射線防護法を理解する
Education & XR — Digital Transformation for Radiation Protection
放射線は目に見えないため、防護行動の効果を直感的に理解することが困難です。当研究室では、AR/VR/MR(XR)をはじめとするデジタル技術を用いて放射線の散乱・線量分布を可視化し、放射線診療従事者が「どこに立てば被ばくが少ないか」を体感的に学べる教育教材を開発しています。労災疾病臨床研究として、その有効性の検証にも取り組んでいます。
放射線防護の基礎で見た「最適化」を、現場の動作に落とし込んだものが外部被ばく防護の3原則です。ICRPの3原則(正当化・最適化・線量限度)とは別のものなので、混同しないでください。
X線照射時間を最小限にとどめる。被ばくは照射時間に比例して増加します。
線源・散乱線源から可能な限り距離をとる。照射野に手を入れない(照射野内外で線量が10倍以上異なります)。
散乱線源と作業者の間に防護板・防護具を配置する。あわせて装置の品質管理・照射条件の最適化・照射野の絞りも有効です。
防護具には、放射線防護衣(0.25–0.35 mmPb)・防護眼鏡・甲状腺防護具・防護手袋などの着用型と、防護板・防護カーテン・衝立などの非着用型があります。当研究室では、これらの効果的な配置を散乱線シミュレーションで検証しています(水晶体被ばくの実態は 放射線防護の基礎 ― 水晶体被ばくの実態調査 を参照)。





AR/VR/MRで散乱線や線量分布を空間的に可視化し、防護の原理を直感的に学習。
検査・部門ごとの被ばく低減アクションを整理し、現場での実践を支援。
保健学科・大学院での放射線防護教育と、次世代研究者・技術者の育成。
プログラムの3本柱
説明・画像・動画・webVR教材とアクションチェックリストをまとめたサイトでインタラクティブに学習。理解度の分析も効率化。
シミュレーションベースのVR/ARで散乱線分布を可視化。心カテ・ERCP・CT・外科用イメージに対応したARアプリを開発。
ワイヤレス線量計や散乱線可視化カメラと連動し、術者の被ばくをリアルタイムに推定・警告。

当研究室が開発した X-SERVE は、X線透視室の散乱線分布をAR(拡張現実)で可視化するアプリケーションです。タブレットやHMDを通して実際の検査室を見ると、本来まったく見えない散乱線の広がりが空間に重ねて表示され、「どこに立つと被ばくが多いか」を直感的に把握できます。
従来の放射線防護教育は数値と口頭説明が中心で、危険な位置を体感的に理解することが困難でした。X-SERVEは散乱線を「見える化」することで、術者・看護師・診療放射線技師が自ら防護行動を選べるようにします。WebVR/AR教材や ParaView による線量分布の可視化とあわせて、教育現場・臨床現場の双方で活用しています。
X-SERVEのアプリ本体、WebVR/AR教材、部門別の防護アクションチェックリスト等は、当研究室が運営する DXを活用した医療従事者の被ばく低減プログラム(DXRPP) で公開しています(労災疾病臨床研究事業費補助金による研究成果)。
用途別に3種類あります。
ARアプリ「X-SERVE」(X-ray examination Scattered Radiation Visualize application)は、モンテカルロ計算による散乱線分布をiPad/iPhoneの実空間に重ねて表示します。線量の大きさに応じた色(赤→黄→緑→水色→青)で散乱線の3次元的な広がりを示し、装置構成(X線管・患者・ポータブル装置)に合わせて任意の位置の被ばくを直感的に把握できます。






ブラウザで試せます。X-SERVE 本体は iPad / iPhone 用のARアプリですが、同じ散乱線分布をブラウザだけで観察できる Web 版を公開しています。インストールは不要です。
CT検査室の散乱線ビューア(WebXR) X線撮影室の散乱線マップ 放射線量可視化
ほかのWeb教材・アプリは、このページの 公開しているWeb教材・アプリ でまとめてご覧いただけます。
計算した分布を見せるだけでなく、散乱線を実際に測って、その発生源と広がりを画像にする研究も進めています。ピンホールコリメータ・シンチレータ・CMOSカメラを組み合わせた可視化システムに深度カメラを加え、心臓血管撮影室で散乱線の発生源を3次元で表示しました。散乱線は患者ファントムの体表(X線の入射側)だけでなく、寝台やX線管の側からも生じていることが見て取れます。小型の半導体検出器 Timepix3(MiniPIX、CdTe センサー)を用いた散乱X線の測定と可視化にも取り組んでいます。測って得た分布は、計算にもとづく教材の裏づけにもなります。
作るだけで終わらせず、学習効果を測って改良する
開発した教材は、実際の授業・実習に組み込んで効果を検証しています。学部学生 39名 を対象に、血管撮影室とCT室でのAR実習を行い、20問の○×テストを実習前後で実施しました。その結果、散乱線の発生源と広がりに関する知識は明確に向上した一方で、Cアームの角度による分布の変化は依然として理解が難しく、また機能や課題が多いと認知負荷が高くなるという課題も見えました。導入動画と振り返りの時間を設けるなどの改善を進めています。


VRゴーグルは没入感が高い一方で高価であり、多人数が同時に使うことができません。そこで、ブラウザだけで動く WebXR 教材を開発し、PC・スマートフォンから誰でもアクセスできるようにしました。端末を動かすだけで任意の方向から散乱線分布を観察でき、遠隔地の看護学生の実習にも用いています(Nishi, J. Radiol. Prot., 2022)。





散乱線の可視化・被ばく評価のデモ(研究室YouTubeチャンネル「lab fujibuchi」より)。サムネイルをクリックすると再生します。
上でご紹介した教材のうち、どなたでも使える形で公開しているものの一覧です。インストールは不要で、ブラウザだけで動きます。授業・研修・自習にご利用ください。
| 区分 | 名称 | 内容 |
|---|---|---|
| ① 医療被ばく | 入射表面空気カーマ計算 | 管電圧・フィルタ・距離から、患者の入射表面線量をモンテカルロ計算(Birch-Marshall)で求める。 |
| CT 患者線量分布計算 | CT検査での体内の線量分布を3次元モンテカルロで計算し、臓器ごとの線量を確認できる。 | |
| 線量管理システム e-learning | 医療法で義務づけられた線量の記録・評価・最適化のサイクルを、画面を操作しながら学ぶ教材。 | |
| 放射線治療 吸収線量評価トレーナー | 水ファントム計測の7ステップ・24シナリオ。距離(SSD/SCD/SAD)と補正係数を3Dで確かめながら進む。 | |
| ② 職業被ばく | X線撮影室の散乱線マップ | 撮影室のどこにどれだけ散乱線が広がるかを平面図で確認する。立ち位置の検討に使える。 |
| CT検査室の散乱線ビューア(WebXR) | CT検査室の3次元散乱線分布をブラウザで観察する。X-SERVE のWeb版にあたる。 | |
| 放射線量可視化 | 照射条件を変えながら、空間に広がる線量分布の変化を対話的に確かめる。 | |
| RFMCEdu ― X線の挙動とモンテカルロの基礎 | 光子がどう相互作用し、どう散乱するか。計算の中身を目で追える基礎学習用。 | |
| ③ 環境・教育 | Cs-137 地表汚染 線量分布シミュレータ | 汚染した地面からの線量分布を計算する。寄与リング・除染範囲・家屋の遮蔽・土中への浸透を切り替えて比べられる。 |
| 放射線リスクコミュニケーション トレーニング | AIが市民・患者役として質問する対話練習。共感・科学的正確性・わかりやすさ・意思決定支援の4軸で採点し、改善点を返す。 | |
| 小学生向け AR 放射線教材 | 「X線で体の中を覗いてみよう」。はねかえるX線(散乱線)も見える、子ども向けのAR教材。 |
※一部に学内限定・実験中のものがあります。動作環境や不具合のご連絡は アクセス・連絡先 までお願いします。
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